能楽鑑賞する機会があり、国立能楽堂に行ってきました。
場所はこのあたり。千駄ヶ谷駅のすぐ近くですね。
そこで鑑賞した「求塚」という演目のストーリーがけっこう衝撃的だったので、分かりやすく紹介させて頂きたいと思います。
高級お面 般若 ・はんにゃ(白) 張子製(紙製) [ お面 おめん 紙 お祭り 縁日 祭り用品 お祭り用品 屋台 花火大会 祭り 衣装 お祭り衣装 能面 能楽 神楽 仮面 女面 Noh mask ]
「求塚」のストーリー
生田の里
物語の主人公は旅の僧。
旅の途中、摂津国(現在の大阪~兵庫あたり)にある生田の里へ差し掛かります。
※生田は実在の地名で、現在も兵庫県神戸市に生田川という川が流れています。陣内智則さんと藤原紀香さんが結婚式を挙げたのは、生田神社でしたね。
早春の晴れた日だったため、生田の里では、地元の女性たちが野草を摘んでいます。
僧に気づいた女性たち。僧に付近の名所を案内してくれます。
しかし、僧がふと、「そういえば、この辺りに『求塚』という場所があるんだって?」と聞いてみたところ、女性たちの顔色がサッと変ってしまいます。
女性たちは明らかによそよそしくなり、 「さぁて、そろそろ終わりにしましょうかね・・・」などと言いながら帰ってしまいました。
首をひねる僧。しかし、ふと見ると、1人だけ女性が残っています。
「求塚は、こちらです」と僧を案内してくれることになりました。
求塚にまつわるエトセトラ
こんもりとした古いお墓に着いた僧と女性。これが僧がリクエストした「求塚」のようです。
すると、女性が塚について解説を始めます。
この塚は菟名日処女(うないおとめ)という女性の墓であり、次のようなエピソードがあるそうです。
~~~~~~~~
昔、生田の里に、菟名日処女(うないおとめ)という美女がおり、二人の男から言い寄られていました。ラブレターを同じタイミングで寄こされるなど、彼女をめぐる恋愛バトルはどんどん加熱していきます。
困った菟名日処女(うないおとめ)。じゃあ生田川にいる鳥を射止めた方を選びますと、かなり思い付きな案を提案してしまいます。
すると、二人の男が射た矢は、2本とも1羽のオシドリにクリーンヒットしてしまいました。これでは一人を選ぶことはできません。
さらに、2本の矢で撃ち抜かれた哀れなオシドリは死んでしまいました。
オシドリとは、「おしどり夫婦」という言葉があるくらい、つがいの仲が良いことで知られています。
その一方の命を奪ってしまったことにショックを受けた菟名日処女(うないおとめ)、自分は何と愚かなことをしてしまったのだと、生田川に身を投げてしまいました。
なお、身を投げる際、「生きるという文字が入っている『生田』という名前とはウラハラに、私はここで亡くなることよ」的なコメントをします。古典あるあるの言い回しですね。
そして、菟名日処女(うないおとめ)が亡くなったのを知った二人の男は、ショックのあまり、お互い刺し違えて亡くなってしまいます。
オシドリに加えて、この二人の男が亡くなってしまったことも菟名日処女(うないおとめ)の罪業になってしまいました。
なんだか、かなり理不尽な気もしますが、結果、菟名日処女(うないおとめ)は地獄で責め苦を受けることになってしまいました。
~~~~~~~~
以上の内容を語ると、ああ~救われたい~~などと言いながら、女性は求塚の中に消えてしまいます。
菟名日処女(うないおとめ)の亡霊
呆然とする僧。近くを通りかかった地元のオッサンに聞き込みをして、事実確認をします。
結果、僧は、先ほどの女性は菟名日処女(うないおとめ)の亡霊に違いないと確信します。かなりのホラー展開ですね。
求塚に向かって読経を行ってみる僧。すると案の定、先ほどの菟名日処女(うないおとめ)の亡霊が現れました。
なお、菟名日処女(うないおとめ)はずっと地獄で凄惨な責め苦を負っていたそうで、美女だった頃の面影はなく、ひどい姿をしています。
僧のホーリーパワーが含まれる読経で多少なりとも救われて楽になったそうで、お礼を述べる菟名日処女(うないおとめ)。
しかし、読経で救われたのもつかの間。
二人の男の亡霊が現れ、菟名日処女(うないおとめ)の手を引っ張ります。加えて、例のオシドリが鉄の鳥になって肉をついばんできます。さらに地獄の鬼まで現れ、地獄の業火が燃え上がります。
「あぁ、熱い、熱い・・・」などと言いながら、引き続き、救いのない地獄で苦しみ続ける菟名日処女(うないおとめ)。
物語はこれで終わりです。なんというバッドエンド。
序盤のうららかな早春の野草摘みと、終盤のえぐい地獄の責め苦とのコントラストが特徴の作品とか評されているようですが、そういう問題なのか・・・。
「求塚」関連の史跡
この「求塚」は観阿弥・世阿弥の作ですが、平安時代に書かれた「大和物語」に出てくる「生田川伝説」が元ネタだそうです。
その「大和物語」も、「万葉集」に出てくるエピソードを参考にしているとか。相当古い伝承なんですね。
なお、神戸に行った際、関連史跡を発見しました。
下の写真の看板によると、近隣に三つの史跡があり、菟名日処女(うないおとめ)の墓を中心にして、東西に二人の男の墓を作ったそうです。
源氏物語「浮舟」
紫式部の「源氏物語」(全54話)は、ラスト10話を「宇治十帖」と呼びますが、その中に「浮舟」という女性のストーリーがあります。
「浮舟」も求塚と似たような展開で、光源氏の亡きあとのダブル主人公である薫大将・匂宮の超絶イケメン二人から同時に求婚され、思い悩んだ挙句、宇治川に身を投げてしまいます。
ただ、本当に亡くなってしまう菟名日処女(うないおとめ)とは異なり、浮舟は川から救助され、二人の手の届かないところで出家してしまうという違いがあります。
おわりに
以上、能楽「求塚」について、内容を解説させて頂きました。もし観に行く機会があれば、参考にして頂ければ幸いです。
現代であろうと、能楽で描かれるような昔であろうと、男女の色恋沙汰は相変わらずなんでしょうね・・・。